SASTの基本を徹底解説!DAST・IASTとの違いから導入の重要性まで

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aslead編集部
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「SASTってよく聞くけど、結局何ができるの?」「開発の初期段階でセキュリティ対策をするってどういうこと?」そう思っている方もいるかもしれません。実は、SAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)は、あなたのソフトウェア開発を劇的に安全かつ効率的にする強力な手法なんです。

この記事では、SASTの基本的な概念から、その仕組み、そしてDASTやIASTといった他のテスト手法との違い、さらにはなぜ開発の早い段階での導入がこれほど重要なのかを、初心者にも分かりやすく徹底解説します。SASTの基礎をしっかりと理解し、よりセキュアな開発への第一歩を踏み出しましょう。

目次

SASTとは?静的アプリケーションセキュリティテストの基礎知識

SASTの定義と基本的な仕組み

SAST(Static Application Security Testing)は、日本語では「静的アプリケーションセキュリティテスト」と訳されます。これは、アプリケーションのソースコードやバイナリコードを実際に実行せずに解析し、潜在的な脆弱性やセキュリティ上の問題点を見つけ出すテスト手法です。プログラムが実際に動く前に、その設計図やレシピをじっくりと見て、セキュリティ上の間違いがないか確認するようなものと考えると分かりやすいでしょう。

SASTツールは、特定のプログラミング言語の構文や意味を理解し、既知の脆弱性パターン(SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティングなど)と照合したり、データがコード内でどのように流れるか、あるいはプログラムの実行経路などを分析して、セキュリティ上の欠陥を洗い出します。これにより、開発の初期段階で問題を検出し、修正にかかるコストを大幅に削減できるという大きなメリットがあります。

SASTとDAST、IASTの違い

アプリケーションのセキュリティテストには、SAST以外にもいくつかの主要な手法が存在します。これらを理解することで、より包括的なセキュリティ戦略を立てられます。

DAST(Dynamic Application Security Testing): DASTは「動的アプリケーションセキュリティテスト」と呼ばれ、実際にアプリケーションを実行しながら、外部からの攻撃をシミュレートして脆弱性を検出する手法です。例えば、Webアプリケーションであれば、Webブラウザからアクセスし、入力フォームに不正なデータを送り込んだり、特定のURLにアクセスしたりして、アプリケーションの振る舞いを監視します。コードが実行されるため、ランタイム(実行時)の問題や設定ミスなど、SASTでは見つけにくい脆弱性を発見できる可能性があります。

IAST(Interactive Application Security Testing): IASTは「インタラクティブアプリケーションセキュリティテスト」と呼ばれ、SASTとDASTの両方の要素を組み合わせたハイブリッドなテスト手法です。アプリケーションの内部(エージェント)と外部(テスター)の両方から情報を収集し、実行時のコードカバレッジや脆弱性の特定精度を高めます。開発環境やテスト環境で、リアルタイムに近い形で脆弱性を検出できるのが特徴です。

それぞれのテスト手法には得意分野があり、多くの場合、これらを組み合わせて利用することで、より網羅的なセキュリティテストを実現できます。

なぜSASTが開発初期に重要なのか

SASTが特に注目される理由は、その早期発見能力にあります。ソフトウェア開発のライフサイクルにおいて、脆弱性が発見されるのが遅くなればなるほど、修正にかかるコストは指数関数的に増加すると言われています。

例えば、要件定義や設計段階でセキュリティ上の問題を見つけられれば、修正はドキュメントの変更やコードの書き換えで済みます。しかし、本番稼働後に脆弱性が発覚した場合、コードの修正に加えて、デプロイ、テスト、そして場合によっては顧客への説明や信頼の回復といった多大なコストと労力が発生します。

SASTは、コードがまだ開発段階にあるうちから脆弱性を指摘してくれるため、開発者は問題を早期に修正でき、結果として開発手戻りを減らし、リリースまでの時間を短縮できます。これは、現代の高速な開発サイクルであるCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)環境において、特に重要な利点となります。

なぜ今、SASTが重要なのか?開発プロセスにおけるメリット

開発プロセスにおいて、なぜSASTの導入がこれほどまでに推奨されるのでしょうか。その具体的なメリットを見ていきましょう。

開発手戻りの削減とコスト効率

SASTの最大のメリットの一つは、開発手戻りの削減によるコスト効率の向上です。コードの記述直後やCI/CDパイプラインの早い段階で脆弱性を検出することで、後工程での大幅なコード修正や設計変更を防ぐことができます。これにより、開発チームはより効率的に作業を進められ、プロジェクト全体の納期遵守にも貢献します。セキュリティ対策が「後付け」ではなく「組み込み型」になることで、長期的な開発コストの削減にも繋がるでしょう。

セキュリティ品質の向上とリスク低減

SASTを導入することで、開発されるソフトウェアのセキュリティ品質が飛躍的に向上します。既知の脆弱性パターンに対する網羅的なチェックが行われるため、見過ごされがちな潜在的なリスクを早期に洗い出せます。これにより、リリース後のセキュリティインシデント発生のリスクを低減し、企業やサービスの信頼性を保護することができます。結果として、顧客データの漏洩やサービス停止といった、ビジネスに甚大な影響を及ぼす事態を未然に防ぐことに繋がります。

法規制・コンプライアンスへの対応

現代のソフトウェア開発においては、GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの個人情報保護に関する法規制、あるいはSOX法(サーベンス・オクスリー法)などの企業統治に関する規制など、様々な法的要件や業界標準への準拠が求められます。SASTツールは、これらのコンプライアンス要件に関連する脆弱性パターンを検出する能力を持つものが多く、企業が法規制を遵守し、必要な監査に対応するための有効な手段となります。定期的なSASTスキャンは、コンプライアンス遵守の証拠としても機能し、企業の法的リスクを低減します。

SASTの仕組みと検出できる脆弱性の種類

SASTツールがどのようにコードを分析し、どのような脆弱性を検出できるのかを詳しく見ていきましょう。

SASTの静的解析アプローチ

SASTツールは、主に以下の3つの静的解析アプローチを用いてコードを分析します。

パターンマッチング(シグネチャベース): 既知の脆弱性パターン(シグネチャ)のデータベースとソースコードを照合する方法です。例えば、「SQLインジェクション」に繋がる可能性のある特定の関数呼び出しや文字列操作のパターンなどを識別します。これはウイルス対策ソフトが既知のウイルスを検出するのと似ています。

データフロー解析: コード内をデータがどのように流れていくかを追跡し、信頼できない入力データがどのように敏感な関数に到達するかなどを特定します。例えば、ユーザー入力が適切にサニタイズ(無害化)されずにデータベースクエリに直接使用されるケースなどを検出します。

制御フロー解析: プログラムの実行パス(処理の流れ)を分析し、到達不能なコードやロジックの欠陥、セキュリティ上の設定ミスなどを特定します。例えば、認証スキップの可能性や、特定の条件下での不正アクセス経路などを洗い出すのに役立ちます。

これらの解析アプローチを組み合わせることで、SASTツールは様々な角度からコードのセキュリティ上の問題点を深く掘り下げていきます。

検出可能な主な脆弱性(OWASP Top 10-2021との関連)

SASTが検出できる脆弱性は多岐にわたりますが、特にWebアプリケーションのセキュリティにおいて広く認知されている「OWASP Top 10」の項目と深く関連しています。OWASP Top 10は、Webアプリケーションにおける最も重大なセキュリティリスクを10項目にまとめたものです。

SASTツールは、OWASP Top 10の以下の項目に関連する脆弱性を検出するのに非常に有効です。

A01:2021-破損したアクセス制御(Broken Access Control):アクセス権限の不適切な設定など。

A02:2021-暗号化の失敗(Cryptographic Failures):不適切な暗号化の実装や古いアルゴリズムの使用など。

A03:2021-インジェクション(Injection):SQLインジェクション、OSコマンドインジェクションなど、外部からの不正な入力によるコマンド実行。

A04:2021-安全ではない設計(Insecure Design):セキュリティ設計上の欠陥。

A05:2021-セキュリティ設定の不備(Security Misconfiguration):デフォルト設定のまま運用、不必要なサービスの公開など。

A06:2021-脆弱で古くなったコンポーネント(Vulnerable and Outdated Components):既知の脆弱性があるライブラリやフレームワークの使用。

A07:2021-識別と認証の失敗(Identification and Authentication Failures):認証情報の不適切な管理、セッション管理の不備など。

A08:2021-ソフトウェアとデータの整合性の失敗(Software and Data Integrity Failures):アップデートプロセスやCI/CDパイプラインにおける信頼性の欠如。

A09:2021-セキュリティロギングとモニタリングの失敗(Security Logging and Monitoring Failures):十分なログがない、ログが適切に監視されていないなど。

A10:2021-サーバサイドリクエストフォージェリ(Server-Side Request Forgery – SSRF):サーバが内部ネットワークや外部リソースに不正なリクエストを送信してしまう問題。

SASTは、特にインジェクション系の脆弱性や、不適切な暗号化、アクセス制御の欠陥など、コードレベルで直接検出できる問題に強みを発揮します。

誤検知と見逃しの問題、その対策

SASTツールは非常に強力ですが、完璧ではありません。**誤検知(False Positives)見逃し(False Negatives)**という2つの課題が存在します。

誤検知(False Positives): 実際には脆弱性ではないにもかかわらず、ツールが脆弱性として報告してしまうことです。これは、ツールのルールが汎用的すぎたり、コードの複雑なロジックを正確に理解できない場合に発生しがちです。誤検知が多いと、開発者は大量の警告を一つ一つ確認する手間が増え、ツールの信頼性が低下する可能性があります。

見逃し(False Negatives): 実際に脆弱性があるにもかかわらず、ツールがそれを検出できないことです。これは、ツールが新しい種類の脆弱性パターンに対応していなかったり、特定の複雑なコード構造を見落としてしまったりする場合に起こります。見逃しは、セキュリティリスクが残ったまま本番環境にデプロイされてしまうという、より深刻な問題に繋がります。

これらの課題に対処するためには、以下の対策が有効です。

ツールのチューニング:プロジェクトの特性に合わせてツールのルールセットを調整し、誤検知を減らす。

開発者のセキュリティ知識向上:SASTの指摘を理解し、適切な判断を下せるよう開発者のセキュリティ教育を強化する。

複数のテスト手法の併用:SASTだけでなく、DASTや手動でのコードレビュー、ペネトレーションテストなどを組み合わせることで、見逃しを減らし、より網羅的なセキュリティテストを実現する。

継続的な改善:ツールのバージョンアップや最新の脆弱性情報の追跡を怠らない。

「SASTを導入したいけれど、どのツールが自社に合っているか分からない」「既存の開発プロセスにどう組み込めばいいのか悩んでいる」といったお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。asleadでは、お客様の開発環境や要件に合わせた最適なSAST導入のご支援をしております。セキュリティと開発効率の両立に向けて、ぜひお気軽にご相談ください。