Snowflakeデータレイク構築ガイド〜スキーマ設計からパフォーマンス最適化まで〜

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aslead編集部
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目次

Snowflakeで実現するモダンなデータレイク構築

現代のエンタープライズ企業は、日々生成される膨大なデータをいかにしてビジネス価値に転換するかという課題に直面しています。複数のシステムから集まる構造化・非構造化データを統合し、リアルタイムで分析するためには、従来型のデータウェアハウス(DWH)だけでは限界が見え始めています。そこで注目されているのが、あらゆる形式のデータをそのままの形で大規模に保管し、柔軟な分析を可能にする「データレイク」です。

データレイクは、従来のDWHが持つ「事前に定義されたスキーマにしかデータを格納できない」という制約を乗り越え、DX推進の強力な基盤となります。しかし、その構築と運用には専門的な知識が求められます。本記事では、クラウドデータプラットフォームであるSnowflakeを活用し、スケーラブルで高性能なデータレイクを構築するための実践的なガイドを提供します。スキーマ設計のベストプラクティスから、パフォーマンス最適化、実装時の注意点まで、データエンジニアやアーキテクトが知るべき全てを網羅的に解説します。

特徴 データウェアハウス(DWH) データレイク
データ構造 構造化データ 構造化・半構造化・非構造化データ
スキーマ スキーマ・オン・ライト(書き込み時に定義) スキーマ・オン・リード(読み込み時に定義)
主な用途 BI、定型レポート 機械学習、データ探索、高度な分析
データ処理 ETL(抽出・変換・ロード) ELT(抽出・ロード・変換)

【第1章】Snowflakeでのデータレイク構築の基本

1-1. データレイクの概念と構成要素

データレイクとは、あらゆる形式のデータを、そのネイティブな形式のまま一元的に保管する大規模なリポジトリです。従来型のDWHが主に構造化データを対象とするのに対し、データレイクはログファイル、画像、動画、SNSの投稿といった非構造化データまで、あらゆるデータを受け入れます。この柔軟性により、将来的にどのような分析が必要になるか予測できない状況でも、とりあえずデータを蓄積しておくことが可能になります。

一般的に、データレイクは以下の3つの層で構成されます。

  • Raw層(生データ層): データソースから収集した元のデータを一切加工せずにそのまま保管する層です。データの完全性を担保し、将来的な再処理に備える役割を持ちます。
  • Refined層(加工層): Raw層のデータをクレンジングし、ビジネス要件に合わせて変換・加工したデータを保管する層です。データ品質を高め、分析しやすい形式に整えます。
  • Analytics層(分析層): Refined層のデータをさらに集計・加工し、特定の分析用途やBIツールでの利用に最適化されたデータを保管する層です。高速なクエリ応答を実現します。

1-2. Snowflakeのアーキテクチャとデータレイク構築への適性

Snowflakeは、その独自の3層アーキテクチャにより、データレイク構築に非常に適しています。ストレージとコンピュート(処理能力)が完全に分離しているため、データ量の増加に合わせてストレージを無制限に拡張しつつ、ワークロードに応じてコンピュートリソースを柔軟にスケールさせることが可能です。これにより、大量のデータを取り込みながら、同時に複数の分析クエリを実行しても、互いに干渉することなく安定したパフォーマンスを維持できます。

また、SnowflakeはJSON、Avro、Parquetといった半構造化データをネイティブにサポートしており、専用のデータ型と関数を用いて容易にクエリを実行できます。これにより、構造化データと非構造化データをシームレスに統合した分析が実現します。

1-3. データレイク構築の全体フロー

Snowflakeでデータレイクを構築するプロジェクトは、一般的に以下の4つのフェーズで進行します。

  1. 計画・設計: ビジネス要件を定義し、対象となるデータソースを特定します。そして、本記事の後半で詳述するスキーマ設計や、セキュリティ・ガバナンスの要件を固めます。
  2. 構築・実装: Snowflake環境をセットアップし、定義したスキーマを実装します。同時に、データソースからデータを自動的に取り込むためのパイプラインを構築します。
  3. データ移行・検証: 既存システムから初期データを取り込み、データの品質を検証します。また、想定されるクエリを実行してパフォーマンステストを行います。
  4. 本番運用: 継続的なデータ取り込みを開始し、パフォーマンスを監視しながら、必要に応じて最適化を繰り返します。

【第2章】スキーマ設計のベストプラクティス

2-1. データレイクのスキーマ設計の基本原則

データレイクの価値を最大化するためには、スキーマ設計が極めて重要です。以下の5つの基本原則を念頭に置いて設計を進める必要があります。

  • 柔軟性: 将来のデータソース追加や分析要件の変更に容易に対応できる、拡張性の高い設計を目指します。
  • スケーラビリティ: データ量の増加に伴いパフォーマンスが劣化しないよう、スケール可能なデータ構造を採用します。
  • パフォーマンス: 分析クエリが高速に実行できるよう、データの物理的な配置やパーティショニングを考慮します。
  • 保守性: 誰が見ても理解しやすく、運用・管理が容易な命名規則や構造を維持します。
  • ガバナンス: データの出所や品質を追跡し、アクセス制御を容易にするためのメタデータを組み込みます。

2-2. 3層スキーマ設計の詳細

前述の3層構造(Raw、Refined、Analytics)をSnowflake上で具体的に設計する際のポイントを解説します。

  • Raw層: データソースからロードしたデータをそのまま格納します。テーブル名は raw_sales_transactions のように、ソースシステムがわかる命名規則を採用します。取り込み日時やソースファイル名といったメタデータを列として追加することで、トレーサビリティを確保します。
  • Refined層: Raw層のデータをクレンジングし、ビジネスルールに基づいて変換したデータを格納します。例えば、顧客マスタと売上トランザクションを結合し、顧客名を付与するなどの処理を行います。テーブル名は refined_sales_fact のように、データの意味がわかる名前にします。
  • Analytics層: Refined層のデータをさらに集計し、特定の分析ダッシュボードやレポート作成に最適化したデータマートを構築します。analytics_monthly_sales_summary のように、用途が明確にわかるテーブル名が望ましいです。

2-3. スター型スキーマ vs スノーフレーク型スキーマ

Analytics層の設計でよく用いられるのが、スター型スキーマとスノーフレーク型スキーマです。

  • スター型スキーマ: 売上金額や数量といった数値データを持つ「ファクトテーブル」を中央に配置し、その周囲に顧客、商品、時間といった分析の切り口となる「ディメンションテーブル」を配置する構造です。JOINの回数が少なく、クエリが単純で高速であるというメリットがあります。
  • スノーフレーク型スキーマ: スター型スキーマのディメンションテーブルをさらに正規化し、階層構造を持たせたものです。データの冗長性が排除されストレージ効率は高まりますが、JOINが複雑になりクエリのパフォーマンスが低下する可能性があります。

Snowflakeの強力なコンピュート能力とカラムナストレージの特性を活かすためには、一般的にスター型スキーマが推奨されます。ストレージコストよりもクエリパフォーマンスを優先する方が、全体的なコスト効率が高くなるケースが多いためです。

2-4. 実装時の設計パターン

顧客マスタのように時間とともに情報が変化するデータを扱う際には、Slowly Changing Dimension(SCD)という設計パターンを用います。特に、変更履歴をすべて保持する「Type 2」は、過去の任意の時点での分析を可能にするため、データレイクにおいて非常に重要です。Snowflakeの MERGE コマンドやストリーム機能を利用することで、SCD Type 2を効率的に実装できます。

【第3章】クラスタリングキーによるパフォーマンス最適化

3-1. クラスタリングキーの基本概念

Snowflakeには、従来型DWHのようなユーザーが管理するインデックスは存在しません。その代わりに、テーブル内のデータを物理的に並べ替えて整理する「クラスタリングキー」という仕組みが提供されています。クラスタリングキーを適切に設定することで、Snowflakeはクエリ実行時に不要なデータブロック(マイクロパーティション)を読み飛ばし、スキャンするデータ量を劇的に削減できます。これを「プルーニング」と呼びます。

3-2. クラスタリングキーの選択基準

クラスタリングキーは、テラバイト級の大規模なテーブルに対して設定することで、その効果を最大限に発揮します。キーとして選択すべき列には、以下のような特徴があります。

  • WHERE句で頻繁にフィルタ条件として使用される列: 例えば、sales_datecustomer_id など。
  • JOINの結合キーとして使用される列: ディメンションテーブルの主キーなど。
  • カーディナリティ(値の種類)がある程度高い列: 値の種類が少なすぎるとプルーニングの効果が薄れます。

逆に、値がランダムに分散している列や、更新頻度が高い列はクラスタリングキーには不向きです。

3-3. クラスタリングキーの実装と監視

クラスタリングキーは CREATE TABLE 文または ALTER TABLE 文で設定します。

CREATE TABLE sales_fact (
  sales_id INT,
  customer_id INT,
  sales_date DATE,
  amount DECIMAL
)
CLUSTER BY (sales_date, customer_id);

設定後は、SYSTEM$CLUSTERING_INFORMATION 関数を用いて、クラスタリングの状態(クラスタリング深度)を監視することが重要です。データの追加や更新によってクラスタリングの品質が低下した場合は、Snowflakeが自動的にバックグラウンドで再クラスタリング(リクラスタリング)を実行し、最適な状態を維持します。この自動再クラスタリングにはコンピューティングコストが発生するため、コストとパフォーマンスのバランスを考慮した運用が求められます。

3-4. その他のパフォーマンス最適化手法

クラスタリングキー以外にも、Snowflakeにはパフォーマンスを向上させるための機能が用意されています。

  • 検索最適化サービス (Search Optimization Service): 特定の列の値に対する点検索(等価検索)を高速化する機能です。クラスタリングキーが範囲検索を得意とするのに対し、こちらは特定のIDを検索するようなユースケースで効果を発揮します。
  • 結果キャッシュ (Result Cache): 過去24時間以内に実行されたものと全く同じクエリが再実行された場合、キャッシュされた結果を即座に返します。コンピューティングリソースを一切消費しないため、非常に強力な機能です。

【第4章】データ取り込みと統合パイプラインの構築

4-1. データ取り込み方法の選択

データソースからSnowflakeへデータを取り込む方法は、データの発生頻度やリアルタイム性の要件に応じて選択します。日次や週次といった定期的な一括ロードには COPY コマンドによるバッチロードが適しています。一方、IoTデバイスのセンサーデータやWebサイトのクリックストリームのように、継続的に発生するデータには、リアルタイムに近い取り込みが可能なストリーミングロードが適しています。

4-2. Snowpipeを使用した自動データ取り込み

Snowflakeが提供する Snowpipe は、クラウドストレージ(Amazon S3, Google Cloud Storage, Microsoft Azure Blob Storage)に新しいファイルが配置されたことをイベント通知で検知し、自動的にデータをロードするサービスです。サーバーレスで動作するため、仮想ウェアハウスを常時起動しておく必要がなく、低コストで継続的なデータ取り込みを実現できます。データレイクのRaw層へのデータ集約に非常に有効な手段です。

4-3. ETL/ELTパイプラインの設計

従来型のDWHでは、データソースからデータを「抽出し(Extract)」、別のサーバーで「変換(Transform)」してからDWHに「ロード(Load)」するETL処理が一般的でした。しかし、Snowflakeの強力な処理能力を活かす場合、まずデータをSnowflakeに「ロード」し、その後Snowflake内で「変換」を行う ELT アプローチが推奨されます。これにより、変換処理を高速に実行できるだけでなく、データパイプライン全体の構成をシンプルに保つことができます。

4-4. データ品質管理

データレイクは様々なソースからデータを集約するため、データ品質の維持が不可欠です。NULL値のチェック、値の範囲チェック、マスターデータとの整合性チェックといった品質ルールを定義し、データ取り込みパイプラインに組み込むことが重要です。品質基準を満たさないデータは、隔離用のテーブルに移動させ、原因調査と修正を行った上で再度処理する、といった仕組みを構築します。

【第5章】実装時の注意点と失敗事例

5-1. よくある設計ミス

  • スキーマ設計の軽視: 将来の拡張性を考慮せずにスキーマを設計したため、新しいデータソースの追加や分析要件の変更に対応できなくなるケース。対策として、初期段階で様々なユースケースを想定し、柔軟な設計を心がけることが重要です。
  • 不適切なクラスタリングキーの選択: クエリパターンを分析せずにクラスタリングキーを設定したため、パフォーマンスが全く改善しない、あるいは逆に悪化するケース。対策として、実際のクエリ負荷をかけた上でキーを選択し、継続的に監視・見直しを行う必要があります。
  • ガバナンスの後付け: 設計・構築が完了した後にセキュリティやアクセス制御の要件を追加しようとし、大規模な手戻りが発生するケース。対策として、プロジェクトの初期段階からセキュリティ部門を巻き込み、要件を設計に組み込むことが不可欠です。

5-2. パフォーマンス問題への対応

クエリの実行が遅い場合は、まずクエリプロファイルを確認し、ボトルネックとなっている箇所を特定します。大規模なテーブルスキャンが発生している場合はクラスタリングキーの見直しを、特定のJOIN処理に時間がかかっている場合は結合キーのデータ型や分散を確認します。また、ウェアハウスのサイズがワークロードに対して不十分な場合もあるため、一時的にサイズを上げてみてパフォーマンスが改善するかどうかを試すのも有効な手段です。

5-3. コスト管理

Snowflakeは従量課金制であるため、意図しないコスト増大に注意が必要です。特に、非効率なクエリの頻繁な実行や、自動再クラスタリングによるクレジット消費が主な原因となります。リソースモニターを設定し、クレジット消費量に上限やアラートを設けることで、予期せぬコスト超過を防ぐことができます。

【まとめ】次のステップ

本記事では、Snowflakeを活用したモダンなデータレイクの構築方法について、スキーマ設計からパフォーマンス最適化、実装時の注意点までを網羅的に解説しました。Snowflakeの強力なアーキテクチャと機能を最大限に活用することで、企業はサイロ化されたデータを統合し、真のデータドリブン経営へと舵を切ることが可能になります。

次なるアクションとして、まずは自社のデータ環境を棚卸しし、どのようなデータソースを統合すべきか、どのようなビジネス課題を解決したいかを明確にすることから始めましょう。そして、小規模なPoC(概念実証)を通じて、Snowflakeデータレイクの価値を体感することをお勧めします。

NRIでは、お客様のビジネス要件に合わせたSnowflakeデータレイクの設計・構築から、パフォーマンス最適化、運用支援まで、一貫したコンサルティングサービスを提供しています。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。