企業のAI活用を加速する「データ整備」とは:Snowflake Horizonが実現する具体策

- 執筆者
-
aslead編集部こんにちは。aslead編集部です。
最新ソフトウェア開発のトレンドから、AI・DXツールの効果的な活用法、企業のITガバナンスの強化、業務効率化やDX化を成功に導くソリューションまで、幅広い記事を提供しています。
企業が直面する課題の解決策として効率的なツールの活用方法を探求し、生産性の向上に繋がる実践的な情報をお届けすることを目指します。
生成AIやCortexのようなAI機能を試す企業が増える一方で、「PoC(概念実証)を始めようとしたら、そもそもどこにどんなデータがあるか誰も把握していなかった」「AIに質問させてみたら、部門ごとに定義が違う数字を答えてしまった」といった声が後を絶ちません。AI活用の成否を分けるのは、モデルの性能以上に土台となるデータが整っているかどうかであり、多くの企業がこのデータ整備の段階でつまずいています。
データ整備とは、データがどこにあるかを把握し(発見可能性)、何を意味するかを揃え(意味の統一)、信頼できる状態かを担保し(品質)、安全に使える状態かを確認する(保護・統制)という、一連の下ごしらえを指します。この4つが揃って初めて、AIは人手を介さずに正確な回答を返せるようになります。しかし、データが複数のシステムやクラウドに散らばり、担当者ごとに管理方法が異なる現状では、これを人手だけで整えるのは容易ではありません。
こうした課題に対して、Snowflakeが提供するSnowflake Horizon(Snowflakeとその外部データ資産を横断的に統治する、データ・AI資産向けのカタログ機能。以下、Horizon Catalog)は、データ整備を体系的に進めるための機能群をプラットフォームに組み込んでいます。本記事では、企業のAI活用を推進する情シス・データ基盤担当・データ分析部門・経営企画の方を主な読者と想定し、①データ整備で企業が頻繁につまずく課題、②Horizon Catalogが可能にする具体的なデータ整備、③実務で押さえるべきポイントの3点を整理して解説します。なお、機能名・仕様は執筆時点(2026年8月)のものであり、最新情報はSnowflake公式ドキュメントでご確認ください。
全体像:「データ整備」は4つの軸で捉える
まず、データ整備が具体的に何を指すのかを整理しておきましょう。データ整備は、単に「データをきれいにする」という一言では片づけられず、次の4つの軸に分解できます。
– 発見可能性: 社内外に散らばるデータや資産(テーブル、ダッシュボード、AIエージェントなど)を、必要なときに見つけられる状態にあるか。
– 意味の統一: 同じ言葉や指標が、部門やツールをまたいでも同じ意味で使われているか。
– 品質: データが最新かつ正確で、業務判断やAIの回答の根拠として信頼できるか。
– 保護・統制: 機密データが適切に把握・分類され、権限のない利用者やAIエージェントに漏れない仕組みになっているか。
Snowflake Horizonの特徴は、これら4つの軸に対応する機能を個別のツールとしてではなく、Snowflakeというデータ基盤そのものに組み込んで提供している点にあります。ガバナンスのポリシーはアプリケーション層ではなくクエリエンジン層で実行されるため、人間のアナリストがSQLで問い合わせても、BIツールが参照しても、AIエージェントが呼び出しても、同じ統制が自動的に適用されます。つまり「AI用に別途ガバナンスを設定し直す」必要がなく、既存の整備がそのままAI活用の土台になるのです。以降のセクションで、まず企業が陥りがちな課題を整理し、次にHorizon Catalogが可能にする具体的な整備の中身を見ていきます。
データ整備で企業がつまずいている課題(頻発する悩み)
Horizon Catalogの機能を見る前に、なぜ多くの企業がデータ整備で苦労するのか、その典型的なパターンを押さえておきましょう。原因を理解しておくと、どの機能がどの悩みに効くのかを見極めやすくなります。
– データがどこにあるか、誰も正確に把握していない: 事業部ごとに構築したデータベースや外部のデータレイク、BIツールの裏側にあるデータマートなどが分断され、全体像を持つ人がいないケースが多く見られます。結果として、同じデータを部門ごとに作り直す無駄も発生します。
– 同じ言葉なのに、部門ごとに定義が違う:「売上」や「アクティブユーザー」といった指標が、部門やツールによって計算方法が異なることは珍しくありません。この不一致に気づかないままAIに問い合わせると、もっともらしいが誤った回答を得てしまいます。
– データ品質に自信が持てず、結果を信用できない: 欠損値や重複、更新の遅延がどの程度あるかを把握できておらず、「このデータを分析やAIの根拠にしてよいのか」を都度人力で確認する運用になっているケースが多くあります。
– 機密データがどこにあるか分からず、権限設計が後手に回る: 個人情報などのセンシティブなデータがどのテーブル・どの列に存在するかを網羅的に把握できておらず、権限やマスキングの設計が後追いになりがちです。新しいテーブルやスキーマ変更のたびに、対応が漏れるリスクも残ります。
– 問題の原因を遡れない: ダッシュボードの数値がおかしいときに、どのデータソースまで遡れば原因が分かるのかが追跡できず、調査に時間がかかります。AIの回答についても、根拠となったデータまで遡れないと、なぜその答えになったのかを説明できません。
– 整備作業が専門人材頼みで、現場が動けない: カタログ整備やポリシー設定にSQLや専門知識が必要な場合、担当が特定の技術者に集中し、業務部門を巻き込んだ継続的な整備が進みにくくなります。
これらの課題に共通するのは、「データの実態を把握し、意味と品質と安全性を継続的に揃え続ける仕組み」が不足しているという点です。一度整備しても、データやスキーマは日々変化するため、人手の棚卸しだけでは早晩追いつかなくなります。ここに、Horizon Catalogが応える余地があります。
Horizon Catalogでできること①:分断されたデータエステートの発見・接続を一元化する
何ができるかという観点では、Horizon CatalogはSnowflake内部のデータだけでなく、外部のデータ資産も横断的に接続・検索できる単一のカタログを提供します。Apache Icebergテーブルを介して、Snowflake管理・外部管理を問わず任意のエンジンから読み書きでき、Iceberg REST Catalog APIを使えばSpark・Flink・Trinoといった外部エンジンからもガバナンスが適用された状態でデータを参照できます。さらに、カタログリンクデータベースを通じてAWS GlueやAzure OneLakeといった外部のIcebergエコシステムとも接続でき、社内向けの組織内Marketplace(Internal Marketplace)を使えば、データをコピーせずに部門をまたいでデータ製品を発見・共有できます。
どう役立つかという点では、「このデータはどこにあるのか」を探す作業が、部門をまたいだ問い合わせや個別調査ではなく、1つのカタログの検索で完結するようになります。これにより、同じデータを部門ごとに作り直す無駄が減り、既存資産の再利用が進みます。留意点として、外部システムとの接続設定や、どの資産をカタログに登録・共有するかという社内ルールづくりは別途必要になります。単に機能を有効化するだけでなく、登録・棚卸しの運用ルールを併せて整備することが重要です。
Horizon Catalogでできること②:データ品質を継続的に監視し、信頼できるデータにする
何ができるかという観点では、Horizon Catalogはデータ品質モニタリング(システム提供のデータメトリック関数や、独自に定義できるユーザー定義のデータメトリック関数を用いて、データの状態や整合性を継続的に監視する仕組み)を備えています。欠損値の割合、重複件数、鮮度(更新の遅延)といった観点を定期的に測定し、異常があれば検知した上で、根本原因の分析(root cause analysis)につなげられます。
どう役立つかという点では、人間が問い合わせるときもAIエージェントが問い合わせるときも、常に鮮度・正確性が確認されたデータを前提にできるようになります。ダッシュボードの数値に違和感があったときや、AIの回答が不自然だったときに、「そもそもデータ側に問題がなかったか」を最初に確認できる体制が整います。留意点として、どのメトリクスを監視対象にするかは業務上の重要度に応じて選定する必要があり、すべての項目を無差別に監視すると、通知疲れを起こして本当に重要な異常を見逃しかねません。まずは経営指標や主要なAIユースケースに直結するデータから、監視対象を絞り込んで始めることをおすすめします。
Horizon Catalogでできること③:センシティブデータを自動分類し、保護ポリシーを適用する
何ができるかという観点では、Horizon Catalogのセンシティブデータ分類(Sensitive Data Classification)機能を使うと、列に含まれるデータの内容を自動で判定し、個人情報などに該当しそうな列を自動的に検出・分類できます。分類結果はオブジェクトタグとして付与され、スキーマが変化しても手作業の追随なしにタグとポリシーが自動的に適用される点が特徴です。付与されたタグをもとに、既存の動的データマスキングや行アクセスポリシーを組み合わせれば、機密データへの保護を一貫して適用できます。加えて、AIエージェントの出力に対してもAIガードレールを適用すれば、個人情報(PII)や医療関連の機微情報(PHI)をエージェントの回答に含める前に検知・redaction・ブロックすることが可能です。これらのポリシーは、Iceberg REST Catalog対応の外部エンジン経由でアクセスされた場合でも同様に適用されます。
どう役立つかという点では、これまで人手で網羅的に洗い出す必要があった機密データの棚卸し作業を大幅に省力化でき、新しいテーブルや列が追加されるたびに保護対応が漏れるリスクも抑えられます。AIエージェント経由での情報漏洩リスクにも、同じ枠組みで対処できる点が安心材料になります。留意点として、自動分類はあくまで機械的な判定であるため、業務上の機微度の判断まではカバーしきれない場合があります。分類結果はデータオーナーやセキュリティ担当が定期的にレビューし、必要に応じてタグやポリシーを補正する運用を組み込むことが望まれます。
Horizon Catalogでできること④:データリネージとセマンティック層で「同じ意味」を揃える
何ができるかという観点では、Horizon Catalogはエンドツーエンドのデータリネージ(Snowflake内、外部データベース、BIツール、OpenLineage形式のフィードをまたいだ列単位の系譜追跡)を提供し、AIが生成した回答を、元となったデータの出所まで遡って追跡できます。これに加えて、セマンティックビュー(ビジネスに即した定義をAIエージェントが理解できる形で表現する仕組み)を使えば、ゼロから定義を作るためのAutopilot機能や、既存のTableau・Power BIの定義を取り込む方法で、業務指標の定義を一元化できます。さらに、Snowflake Cortexによるテーブル・列の自動ドキュメント生成により、メタデータやサンプルデータから説明文を自動作成し、どのエンジンからも一貫した説明を参照できるようにします。
どう役立つかという点では、ダッシュボードの数値がおかしいときや、AIの回答に疑問があるときに、どのテーブル・どの列まで遡れば原因や根拠にたどり着けるかを追跡できるようになり、原因調査の時間を大幅に短縮できます。またセマンティックビューにより、部門ごとにばらばらだった指標の定義を統一し、人間とAIエージェントが同じ定義・同じ意味を参照する状態を作れます。これは、AIの回答の説明責任(なぜその数字になったのか)を果たすうえでも欠かせない土台です。留意点として、セマンティックビューの定義は技術部門だけで完結させず、指標の意味を最もよく知る業務部門を巻き込んで整備・レビューすることが重要です。定義を作って終わりにせず、業務の変化に合わせて継続的に見直す運用も必要になります。
Horizon Catalogでできること⑤:自然言語でガバナンス運用を進める(Snowflake CoCo)
何ができるかという観点では、Snowflake CoCoのガバナンススキルを使うと、マスキング・アクセス制御・データ品質といったポリシーの設定を自然言語での指示によって行えます。SQLの専門知識がなくても、対話形式でポリシーを構成でき、あわせて自社のガバナンスや観測性の成熟度を評価するスコアリング機能や、優先して対応すべき項目を提示する推奨機能も利用できます。分類・タグ付け・ドキュメント作成、さらには簡単な指示でのセマンティックモデル作成まで、自然言語ベースで進められる点が特徴です。
どう役立つかという点では、これまでSQLや専門知識を持つ技術者に集中しがちだったデータ整備作業に、業務部門やガバナンス担当者も参加しやすくなります。成熟度スコアと推奨事項を手がかりに、「まず何から手をつけるべきか」の優先順位付けもしやすくなり、整備作業が属人化・停滞するリスクを減らせます。留意点として、自然言語による設定であっても、実際に反映されるのは本番環境に影響するポリシーです。誰がどの範囲まで設定変更できるかという権限設計は別途必要であり、小さな範囲で試したうえで適用対象を広げていく進め方が安全です。
ベストプラクティス
Snowflake Horizonを活用してデータ整備を進める際に、押さえておきたいポイントをまとめます。
– 発見可能性の棚卸しから着手する: いきなり品質や保護の作り込みに入るのではなく、まずカタログを使って「何が、どこに、どれだけあるか」を可視化することから始めます。全体像が見えて初めて、優先順位を判断できます。
– 監視するメトリクスを業務価値に紐づける: データ品質モニタリングの対象は、経営指標や主要なAIユースケースに直結するデータから絞り込み、通知疲れを避けます。
– 自動分類は人によるレビューとセットで運用する:センシティブデータの自動分類・タグ付けは省力化に役立ちますが、データオーナーによる定期的な確認を組み込み、機械的な判定の抜け漏れを補います。
– リネージを「トラブル対応」だけでなく説明責任にも使う:データリネージは、問題発生時の原因調査だけでなく、AIの回答の根拠を遡って説明する用途にも活用します。
– セマンティック層は業務部門と一緒に整備する: 指標の定義は技術部門だけで決めず、意味を最もよく知る業務部門を巻き込み、継続的に見直す運用にします。
– 自然言語ツールは小さく試してから広げる: Snowflake CoCoのガバナンススキルは、まず限定的な範囲・権限で試し、意図通りの設定になるかを確認したうえで適用範囲を広げます。
よくある懸念とその対応方法
Snowflake Horizonを使ったデータ整備を検討する際に、よく挙がる懸念とその対応をまとめます。
– 懸念①:「データ整備は範囲が広く、何から手をつければよいか分からない」
対応: データ整備は、発見可能性・意味の統一・品質・保護の4軸に分解して考えると優先順位をつけやすくなります。まずはHorizon Catalogでの棚卸しにより「何が、どこに、どれだけあるか」を把握し、経営指標や主要なAIユースケースに関わるデータから着手するのが現実的です。
– 懸念②:「自動分類やAIによる整備は、精度が信用できるか」
対応: センシティブデータの自動分類や自動ドキュメント生成は、あくまで機械的な一次判定です。すべてを鵜呑みにせず、データオーナーやセキュリティ担当による定期的なレビューをセットで運用することで、精度と実務上の信頼性を両立できます。
– 懸念③:「指標の定義統一は、部門間の調整が大変そう」
対応: セマンティックビューは技術的な仕組みにすぎず、定義そのものの合意形成は組織的な取り組みが不可欠です。Autopilotによる既存BI定義の取り込みなどを使ってたたき台を用意し、そこから業務部門と合意形成を進めると、ゼロから議論するより負荷を抑えられます。
– 懸念④:「AIエージェント経由のデータ漏洩が心配」
対応: Horizon Catalogのガバナンスポリシーはクエリエンジン層で実行されるため、人間・BIツール・AIエージェントのいずれが問い合わせても同じマスキングやアクセス制御が適用されます。加えて、AIガードレールによってエージェントの出力から個人情報や機微情報を検知・ブロックできるため、既存の統制をAI活用にもそのまま拡張できます。
– 懸念⑤:「専門部署がいないと整備を進められないのでは?」
対応: Snowflake CoCoのガバナンススキルを使えば、SQLの専門知識がなくても自然言語でポリシー設定や分類、ドキュメント作成を進められます。成熟度スコアと推奨事項を参考に、小さな範囲から業務部門も巻き込んで進める体制づくりが可能です。
本記事では、企業のAI活用を左右するデータ整備という課題を背景に、Snowflake Horizonが可能にする具体的な整備の内容と、企業が陥りがちな頻発する課題を解説しました。要点は、「発見可能性・意味の統一・品質・保護という4つの軸を、Snowflakeという同じ基盤の上で継続的に整え続けること」が、AI活用を絵に描いた餅で終わらせないための土台になるという点です。
もっとも、どの軸から着手し、どの機能をどう組み合わせるかは、各社のデータ環境や組織体制によって最適解が異なります。NRIのasleadでは、Snowflakeの導入支援およびデータ活用・AI活用のコンサルティングを通じて、データ整備の企画から、カタログ・品質・保護の仕組みづくり、組織への定着までを一貫してお手伝いしております。「AI活用を進めたいが、まずデータの土台から見直したい」といった段階からで構いませんので、ぜひお気軽にお問い合わせください。




