Snowflakeは単なるデータ基盤ではない!Cortex AIで実現する、次世代のAIデータ活用術

Snowflakeは単なるデータ基盤ではない!Cortex AIで実現する、次世代のAIデータ活用術
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aslead編集部
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こんにちは。aslead編集部です。
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目次

【導入】なぜ今、データ基盤で「AI活用」が求められるのか?

デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれて久しい現代、多くの企業がデータ活用を経営の最重要課題の一つとして位置付けています。市場の競争は激化し、顧客の期待は日々高まる中で、データに基づいた迅速な意思決定や、これまでにないパーソナライズされた顧客体験の提供が、企業の持続的な成長に不可欠となっているからです。

このような背景から、AI(人工知能)の活用に大きな期待が寄せられています。しかし、多くの企業にとって、AI導入は決して平坦な道のりではありませんでした。従来のAI開発には、

  • 高度な専門知識: データサイエンティストや機械学習エンジニアといった専門人材の確保が難しい。
  • 高額な開発コスト: AIモデルの開発・運用には多大な計算リソースと費用がかかる。
  • 長い開発期間: データ準備からモデル開発、システム連携まで、多くの時間と工数を要する。

といった「高い壁」が存在していました。これらの課題が、多くの企業、特に専門人材を潤沢に抱えることが難しい企業にとって、AI活用の大きな足かせとなっていたのです。

しかし、もし、使い慣れたデータ基盤の上で、まるでExcelの関数を呼び出すかのように、誰もが簡単に最先端のAI機能を使えるとしたら、ビジネスはどう変わるでしょうか?

本記事では、Snowflakeの最新機能「Cortex AI」が、これまでのAI活用の常識をどのように覆し、専門家でなくてもAIの力を最大限に引き出せる「AIデータ活用」の新時代を切り拓くのか、その全貌を具体的な活用シナリオと共に解説します。

Snowflakeは「AIデータクラウド」へ進化している

「Snowflake」と聞くと、多くの人が高性能なクラウドデータウェアハウス(DWH)を思い浮かべるかもしれません。しかし、現在のSnowflakeは、単なるデータを保管・処理する「倉庫」から、データを活用して新たな価値を創出するための統合プラットフォーム、すなわち「AIデータクラウド」へと大きな進化を遂げています [4]。

その進化の中核を担うのが、2025年6月の「Snowflake Summit 2025」で発表され、同年11月4日に一般提供が開始された「Snowflake Cortex AI」です [1] [10]。

Cortex AIをひと言で表すなら、「Snowflake上のデータに対して、まるで会話するように高度な分析や予測ができる、サーバーレスAIアシスタント」と言えるでしょう。これまで専門家が複雑なコードを書いて行っていたようなタスクを、アナリストやデータエンジニアが使い慣れた**SQLのシンプルな命令(関数)**だけで実行できるのが最大の特徴です。

これにより、企業はデータを外部のAIサービスに移動させることなく、Snowflakeの堅牢なセキュリティとガバナンスの枠内で、安全かつ効率的にAIを活用できます。Cortex AIは、生成AIの力を、ビジネスの最前線で働くすべての人々の手に届ける画期的なサービスなのです。

【事例で解説】Cortex AIで何ができる?明日から使えるAI活用シナリオ3選

では、具体的にCortex AIを使ってどのようなことができるのでしょうか。ここでは、専門家でなくても活用のイメージが湧くように、具体的なビジネスシーンを想定した3つのシナリオと、それを実現するCortex AIの関数を紹介します。

シナリオ1:顧客からの問い合わせメールを自動で分類・要約し、対応品質を向上

課題: カスタマーサポート部門では、毎日大量に届く問い合わせメールの対応に追われています。内容を目視で確認し、担当部署に振り分け、優先順位を判断する作業は属人化しやすく、対応の遅れや漏れが顧客満足度の低下に繋がっていました。

Cortex AI活用: この課題は、Cortex AIのテキスト分析関数群を使うことで劇的に改善できます。まず、AI_CLASSIFY関数を用いて、メールの本文から「料金に関する問い合わせ」「技術的な質問」「クレーム」といったカテゴリを自動で分類します。次に、AI_SENTIMENT関数で顧客の感情(ポジティブ/ネガティブ)をスコアリングし、緊急度を判断。最後にAI_SUMMARIZE_AGG関数で長文の問い合わせ内容を数行に要約します。

-- 問い合わせメール(ticketsテーブル)をCortex AIで分析するクエリ例
SELECT
  ticket_id,
  customer_email,
  AI_CLASSIFY(email_body, ARRAY_CONSTRUCT('料金', '技術', 'クレーム')) AS category,
  AI_SENTIMENT(email_body) AS sentiment_score,
  AI_SUMMARIZE_AGG(email_body) AS summary
FROM tickets;

効果: この仕組みにより、担当者は優先度の高い問い合わせや、自身の専門分野に合致したものから効率的に対応できるようになります。実際に、トラストマネジメントプラットフォームを提供するDrata社では、Cortex AIを活用して顧客からのフィードバックの感情分析を行い、顧客体験の向上に繋げています。手作業を自動化することで、対応時間を短縮し、より付加価値の高い顧客対応に集中できるようになるのです。

シナリオ2:営業日報から「失注の根本原因」をAIが分析し、営業戦略を改善

課題: 営業担当者が日々入力する営業日報や商談メモには、顧客の生の声や失注のヒントが隠されていますが、そのほとんどがテキストデータであるため、有効活用されずに埋もれていました。失注が続いているものの、その根本原因をデータに基づいて特定することができずにいました。

Cortex AI活用: ここでもCortex AIが活躍します。まず、AI_EXTRACT関数を使い、各日報から「顧客の課題」「競合製品」「価格への言及」といった特定の情報を構造化データとして抽出します。海外拠点からの報告もAI_TRANSLATE関数で日本語に自動翻訳して分析対象に含めます。そして、失注した案件の日報に共通して出現するネガティブなキーワードや傾向を、AIが集計・分析します。

-- 営業日報(sales_reportsテーブル)からインサイトを抽出するクエリ例
WITH translated_reports AS (
  SELECT
    report_id,
    deal_status,
    -- 海外拠点の報告を日本語に翻訳
    CASE
      WHEN language != 'ja' THEN AI_TRANSLATE(report_text, 'ja')
      ELSE report_text
    END AS report_text_ja
  FROM sales_reports
  WHERE deal_status = '失注'
),
extracted_insights AS (
  SELECT
    report_id,
    -- 日報から構造化情報を抽出
    AI_EXTRACT(report_text_ja, '顧客の課題を抽出してください') AS customer_issue,
    AI_EXTRACT(report_text_ja, '競合製品名を抽出してください') AS competitor,
    AI_EXTRACT(report_text_ja, '価格に関する言及を抽出してください') AS price_mention,
    AI_SENTIMENT(report_text_ja) AS sentiment_score
  FROM translated_reports
)
SELECT
  customer_issue,
  competitor,
  COUNT(*) AS occurrence_count,
  AVG(sentiment_score) AS avg_sentiment
FROM extracted_insights
GROUP BY customer_issue, competitor
ORDER BY occurrence_count DESC;

効果: これにより、「特定機能の不足を指摘されることが多い」「競合A社の価格設定が障壁になっている」といった、これまで感覚的にしか捉えられなかった失注要因を、データに基づいた客観的なインサイトとして得ることができます。このインサイトは、製品開発へのフィードバックや、営業戦略・トークの改善に直結し、組織全体の受注率向上に貢献します。

シナリオ3:来月の製品需要を「根拠付き」で高精度に予測

課題: 製造業や小売業にとって、需要予測の精度は在庫の最適化や販売機会損失の防止に直結する重要な要素です。しかし、従来の予測は担当者の経験と勘に頼ることが多く、精度にばらつきがありました。

Cortex AI活用: Cortex AIには、時系列データから将来の値を予測するSnowflake ML FunctionsのFORECAST関数が用意されています。過去の売上データ、キャンペーン情報、Webサイトのアクセス数、さらには天候データといった複数の関連データをインプットとして与えることで、AIがそれらの相関関係を学習し、来月の製品需要を高精度に予測します。さらに、どの要素が予測にどれだけ影響したかの「貢献度」も示してくれるため、予測結果の根拠を理解した上で、次のアクションを検討できます。

-- ステップ1: 過去の売上データと関連データを統合
CREATE OR REPLACE VIEW sales_with_features AS
SELECT
  s.sale_date,
  s.product_id,
  s.sales_amount,
  c.campaign_active,  -- キャンペーン実施フラグ
  w.page_views,        -- Webアクセス数
  wt.avg_temperature   -- 平均気温
FROM sales_history s
LEFT JOIN campaigns c ON s.sale_date = c.campaign_date
LEFT JOIN web_analytics w ON s.sale_date = w.access_date AND s.product_id = w.product_id
LEFT JOIN weather_data wt ON s.sale_date = wt.weather_date;

-- ステップ2: 予測モデルを作成・トレーニング
CREATE OR REPLACE SNOWFLAKE.ML.FORECAST sales_forecast_model(
  INPUT_DATA => SYSTEM$REFERENCE('VIEW', 'sales_with_features'),
  TIMESTAMP_COLNAME => 'sale_date',
  TARGET_COLNAME => 'sales_amount',
  -- 複数の製品を一度に予測
  SERIES_COLNAME => 'product_id'
);

-- ステップ3: 来月30日間の需要を予測
CALL sales_forecast_model!FORECAST(
  FORECASTING_PERIODS => 30,
  CONFIG_OBJECT => {'prediction_interval': 0.95}
);

-- ステップ4: 予測結果と各特徴量の貢献度を確認
SELECT * FROM TABLE(RESULT_SCAN(LAST_QUERY_ID()));

効果: 精度の高い需要予測は、過剰在庫によるコスト増や、欠品による機会損失を防ぎます。建設管理会社であるHarkins Builders社は、Cortex AIを活用したアプリでプロジェクトレポートの作成時間を1時間以上からわずか5〜10分に短縮し、年間100時間以上の工数削減を実現しました。同様に、需要予測の自動化・高精度化は、サプライチェーン全体の効率化と収益性の向上に大きく貢献します。

なぜSnowflake上でAIを動かすべきなのか?3つの大きなメリット

Cortex AIが提供する機能は、他のAIサービスでも実現できるかもしれません。しかし、Snowflake上でAIを動かすことには、他にはない3つの決定的なメリットがあります。

メリット 説明
1. 鉄壁のセキュリティとガバナンス Snowflake内のデータを外部に移動させることなく、同じセキュリティ境界内でAI処理が完結します。個人情報や機密情報を外部のAIサービスに送信するリスクを完全に排除できるため、最も厳格なセキュリティポリシーを持つ企業でも安心してAIを活用できます。
2. 圧倒的なシンプルさと開発スピード 多くのエンジニアやアナリストが習熟しているSQLを使って、直接AI機能を呼び出せます。新たなプログラミング言語の学習や、複雑なAPI連携、インフラ環境の構築は一切不要です。これにより、アイデアを即座に形にし、ビジネス価値に繋げるまでの時間を劇的に短縮します。ビデオコマース企業のFirework社は、その使いやすさを評価し、AIアシスタント開発のプロセスを完全にSnowflake内で完結させることで、開発効率を大幅に向上させました [14]。
3. サーバーレスによるコスト効率 Cortex AIは、Snowflakeの他の機能と同様に、利用した分だけ課金されるサーバーレスアーキテクチャを採用しています。AIモデルを動かすための高価なGPUサーバーを常時稼働させておく必要はありません。これにより、スモールスタートでAI活用を始め、ビジネスの成長に合わせてスケールさせることが可能になり、コストを最適化できます。

【まとめ】AI活用の第一歩は、データ基盤の見直しから

本記事では、Snowflakeがもはや単なるデータウェアハウスではなく、AI活用を民主化する「AIデータクラウド」へと進化していること、そしてその中核機能である「Cortex AI」が、いかにビジネスの現場に革命をもたらす可能性を秘めているかを解説しました。

Cortex AIの登場により、これまで一部の専門家のものであったAIの力は、ビジネスの課題を最もよく知る現場の担当者にとって、身近で強力なツールとなります。顧客からのフィードバック分析、営業活動の効率化、高精度な需要予測など、その応用範囲は無限大です。

AI活用の成功は、高度なモデルを構築することだけがゴールではありません。信頼できるデータを、安全かつシンプルに、いかにしてビジネスの意思決定に繋げるかが最も重要です。その意味で、AI活用の第一歩は、自社のデータがどこに、どのような状態で保管されているのか、そのデータ基盤を見直すことから始まると言えるでしょう。

私たちasleadは、Snowflakeの導入・活用を支援するパートナーとして、お客様のデータ環境のアセスメントから、Cortex AIを活用した具体的なPoC(概念実証)の企画・実行、そして全社的なAI活用文化の醸成まで、一気通貫でサポートします。

「自社でもAI活用ができるか相談したい」「Cortex AIの具体的なデモを見てみたい」など、少しでもご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にasleadまでお問い合わせください。次世代のAIデータ活用への扉を、共に開きましょう。